仏蘭西料理屋通信簿とは?


◆はじめに

私達は昔から自分のお金で、足繁くフランス料理店に通っていますが、巷のレストランガイドの内容と、私達が利用した時の評価が一致しないことが多いように思います。レストランガイドのお勧めで行ったけれど、ひどいレストランだった経験は誰しもあるのではないでしょうか?
私達が考えているフランス料理店の理想が高すぎるのかもしれませんが、嗜好の異なる他人が評価したガイドや、レストランの宣伝記事では、納得しがたい点が多いのは当然でしょう。

人は何故お金を払ってまでレストランガイドを購入して読むのでしょうか?
それは他人のレストラン評価を読んで納得するのではなく、レストランに関するあらゆる情報(料理、インテリア、料金、サービスなど)を知って、ご自分の判断でレストラン選びをしたいからではないでしょうか?

評価はレストランに行かれて、ご自分の価値判断ですれば良いことだと思います。
気に入ったレストランであれば再度訪れれば良いし、納得がいかないならば他のレストランに行けば良いことです。


料理なんてまあまあであれば良く、とにかく思い出に残るようなインテリアに囲まれて、高級テーブルウェアで食事したいと思う人もいれば、安くておいしいフランス料理が食べられれば、インテリアやサービスなんてどうでも良いと思う人もいるでしょう。レストランのオーナーも人により、いろいろなコンセプトで営業しています。下町でグランメゾンを開いても経営的に無理なように、オーナーはご自分の理想だけではなく、立地、客層も当然考えて、レストランのコンセプトを決めています。お客はそのレストランのコンセプトをどう評価するかで、レストランを選べば良いことです。
料理に関しても、レストランによりシェフの考え方に差があります。一部のお客に受け入れられないかもしれないが、新しい素材、新しい味付けに意欲を燃やすシェフもいれば、いつ行っても同じ料理がメニューに並んでいるが、昔から定評のあるルセットで、オーソドックスな料理を出すシェフもいます。
レストランのコンセプトをよく理解しないで、評価したり、ランキングしても意味がないと思います。大衆受けを狙って、本やインターネットには『レストランランキング』の類いがたくさんありますが、レストランはパソコンとは違います。性能比較表のようなことはできないはずです。そんなレストランガイドがなくとも、評判の悪いレストランは、自然淘汰されていきます。

このレストランガイドでは、皆さんがレストラン選ぶ時の参考になるように、採点などはせず、レストランを利用して感じた雰囲気、サービス、料理等を、私達の目を通して、できる限りありのままに、詳しく書くようにしています。このWEBサイトを訪問してくれた皆さんは、各レストランの紹介記事を参考に、ご自分がどのような食事をしたいのかをよく考えて、レストランを選んでください。そしてレストランの評価はご自分でなさって、お気に入りのレストランを見つけてください。

サンプル数が少ないのに採点したりランキングすると、点数や順位に目が行き、レストラン本来の姿を歪めて伝える恐れがあると考えます。点数やランキングを主体にしたガイドの場合、どんな料理が出て、どんな雰囲気なのかよく判らず、嗜好の異なる他人が評価した点数や順位しかわかりませんから、レストランガイドとして役に立つかというと、?がつくと思います。
私達はこのようなレストランガイドではなく、フレンチレストランに関心のある人のレベルアップを促して、フレンチレストランのすべてを味わいつくしてもらうための良きガイドにしたいと考えています。単にレストランを詳しく紹介するのではなく、フランス料理を楽しむための知識も充実させていきます。せっかく高いお金を払うのですから、フレンチレストランの楽しさを満喫しましょう。

このガイドを見て、少しでもフレンチレストランのファン(少々うるさいファンですが)が増えることを期待すると同時に、優雅で素敵な時間が過ごせるようにレストラン側のレベルアップも期待しています。
つまりこのコーナーは、『私達はこういうフレンチレストランに行きたい。』というレストランへのメッセージでもあります。


◆仏蘭西料理屋通信簿の名前の由来
数年前に、フジテレビが深夜枠で欧州旅篭通信簿という興味深い番組を放送していました。
この番組では、ヨーロッパの四つ星以上のホテルのスタンダードツインルームの居住性、サービスなど各チェック項目を設けて、100点満点で採点していて、例えば、コンシェルジュの対応、ベッドの幅、バスルームの広さ、ルームサービスで頼んだお湯の温度などを採点する(Aランク 5点/Bランク 3点/Cランク 1点)のです。さすがに名門と謳われている、パリの『オテル・リッツ』、ロンドンの『クラリッジス』(どちらも宿泊したことがありますが、クラリッジスは人手をかけた木目細かなサービスがとても印象に残っています。)は高得点でした。
そこで、私達が考えている理想のフレンチレストランを基準にして、レストラン評価が容易にできる用紙に、同番組名をもじって、仏蘭西料理屋通信簿という名前をつけてみました。

この仏蘭西料理屋通信簿用紙は自分で納得のいくように、レストランを私的に評価して、ご自身のベストレストラン選びをしてみたいと考えている方のために用意してみました。
但し私達が考えている評価項目、評価基準で作成していますので、人によってはあまり役に立たない用紙であるかもしれません。ただそうならないように、かなり自由度を持たせた用紙になっています。
またこの仏蘭西料理屋通信簿は私達がレストランのどのようなところを見て、このガイドを書いているのかを明らかにするために設けています。

◆ご注意
この評価で対象としているレストランは、ビストロのような日常的なフランス料理店は除き、¥10,000/人 以上(税・サービス料/飲物を除く)のグランメゾンと呼ばれる最高級フランス料理店を想定しています。
飲物等を入れれば、安いレストランでも二人で最低¥35,000、ワインはグラン・クリュを注文して食前酒なども楽しめば、高いレストランでは¥70,000にもなります。自分で一回の食事に、このような高いお金を払いますので、利用者の期待は大きいですし、チェックは細かくならざるを得ません。フランス料理に関心のない人にとっては、温泉旅館かリゾートホテルにでも行った方が良いと考えるのが当然でしょう。

最高級フランス料理店(グランメゾン)より低価格のレストランで仏蘭西料理屋通信簿用紙を使用してみたい場合は、この価格でここまで要求できないなと思われる評価項目を、ご自身の判断で削除・改変して使用してください。価格が異なるレストランを同じ評価基準で評価しても意味がありません。
特に価格の安いレストランは、サービススタッフ、シェフの人数を少なくしたり、アルバイトを雇ったりして、人件費を削減しなければ経営が成り立ちませんので、グランメゾンのような丁重なサービスを期待するのは無理と思います。また利用した日の席の混み具合(グランメゾンより下のクラスのレストランでは、人件費を押さえているので、満席の場合は厨房、フロアのサービスとも、てんてこまいのはずです。)、自分のテーブルを担当するサービススタッフの行動によっても大幅に評価が異なってきますし、レストラン業界は人の出入りが激しいところですから、同じレストランを何度も利用しないと、サービスに関してはまともな評価などできないと考えます。
レストランを利用していてサービスが悪いと非常に不愉快ではありますが、グランメゾンより低価格のレストランでは、ある程度当日の状況を考慮したり、そのレストランのコンセプトを理解して評価しましょう。

それでは最高級フランス料理店(グランメゾンクラスのレストラン)をご自分で評価するには、どのようなポイントを見ていけば良いか考えてみましょう。


◆レストランの立地条件/周辺環境

ビルの地下、1階、2階、最上階、一軒家とレストランの立地にはいろいろな条件がありますが、やはり都心部で、一軒家・庭付きは貴重です。ビルの場合、ビル内の他のテナントがどういう業種か、大通りに面している場合、周囲の騒音が遮断されているか、隣接している建物の業種もレストランの雰囲気に影響します。地下の場合、条件は不利ですが、地下という閉鎖的な空間をどう克服しているか注目しましょう。

◆インテリア

●レストランの出入口
レストランの顔ですから、玄関は高級感を持たせ、お客様の期待感を裏切らないようにして欲しいものです。ワインの空き瓶、空箱、安物の置き看板、張り紙はイメージダウンです。またレストランの入口に、その日のメニューを掲示しているレストランがあります。これはこれで便利ですが(高いお金を払う緊張感をある程度、軽減してくれます。)、色が褪せていたりして、きちんとメンテナンスしていないことも多々あります。植物を置く場合も、手入れを怠ったままでは困ります。レセプションで雑貨の販売をするのも、温泉旅館のようで、フランス料理という非日常的な料理を食べるという期待を減退させます。

●ウェイティングルーム/スペース
レストランによっては、ウェイティングルーム/スペースを用意していて、ここでソファに座って食前酒を楽しみながら、メニュー、ワインリストを見る事ができます。高級レストランでは、是非とも用意してもらいたいスペースです。食事前のひとときを盛り上げてくれます。インテリアも上質のものが要求されます。暖炉、バーカウンターなどがあれば、とてもいい雰囲気になります。

●ダイニングルーム
インテリアに関しては、人によって好み(クラシック/モダン)が異なるので、ここではあまり触れませんが、インテリアの質、天井高、通路幅、隣席との間隔、テーブルの配置、見た目の広さは非常に重要です。天井高は2.5m以上、通路幅は、大きなワゴンが余裕を持って通れる(ゲリドン・サービスが支障なくできる。)、隣席との間隔も充分取れ、壁に向かって食事などないかどうかチェックしましょう。テーブルの配置上、隣席との間隔が充分取れない場合、配膳台を中央に置くなどして、見た目の広さを確保する必要があります。また汚れは当然なく、傷んだ箇所は速やかに補修してもらいたいと思います。
高級フランス料理店でオープンキッチンを採用していることは、ほとんどないですが、もし採用していた場合、キッチンの雑音がダイニングルームに漏れてきては落ち着きません。
たまにBGMを流している変わった高級レストランがあります。私達は音楽を聴きに高級レストランに行くのではありません。BGMよりも周囲の人の心地よいざわめきや笑顔(料理がおいしくてサービスが良ければ、必ず楽しい雰囲気になるはずです。)が食事を楽しいものしてくれるはずです。従って高級レストランのダイニングルームにスピーカーは不要だと思います。披露宴でどうしても必要ならば、目障りにならないように天井や壁に埋め込むべきでしょう。

またダイニングルームの大きさは席数とのバランスが取れていることが重要です。狭いスペースに席を詰め込むレストランは、高級レストランとしては失格です。お客様の居住性よりも採算を重視していることは明らかですから。私達は隣の席の人の会話を聞くためにレストランに行くわけではありません。
席数の多いレストランは、当然グランシェフの目も行き届かないはずですから、料理についても?がつくおそれがあります。欧米の超高級ホテルが、200室程度に抑えているのも、十分なサービスをするには、この程度が適正規模だと考えているためです。最高級フランス料理店は、席数は50席が許容限度で、30席位が適正だと私達は考えます。

●レストルーム
いつも掃除が行き届いて清潔であることは勿論、広さも十分で、石鹸、たくさんのハンドタオル、ティシュペーパー、屑篭の用意をしてもらいたいものです。インテリアに関しては、大理石や御影石を床や壁に使っていれば申し分ありません。

●照明
レストランでは料理が主役ですから、料理が引き立つ照明を心がけるべきと考えます。シャンデリアやブラケットで平均的な光量を確保し、ハロゲンランプのスポットライトかダウンライトでテーブルをライトアップすれば理想的です。ある程度テーブルを明るくする工夫は必要でしょう。なおレストランによっては、テーブルにろうそくやランプを置いていることがありますが、これはあくまでムードを高めるためのもので、これによって明るさを確保すべきではないと考えます。

●空調
古いレストランでは、時々空調に問題がある場合があります。吹き出し口の真下にテーブルを配置しないなどの工夫が必要です。空調の音が耳障りなのも問題です。

●椅子
椅子は腰掛けてみれば、どの程度のレベルのものかすぐにわかります。クッションがへたっていたり、長く座っているとお尻が痛くなるものも、時々見かけます。一見クラシックで豪華な装飾の椅子も、単にウレタンをクッションに使っている(段々クッションがへたってくる。)場合があるので、注意が必要です。ベンチシートを設けているレストランも多いですが、上質なファブリックとクッションを使い、シミなどの汚れにも注意してもらいたいものです。またインテリアにマッチした椅子が用意されていないと、居心地が悪い感じがします。

◆テーブルセッティング

●テーブル/テーブルクロス/ナプキン他
テーブルは安定し、かつ必要な大きさが充分確保されていれば、オリジナルでも既製のテーブルでも良いと思います。それよりもテーブルクロスの方が重要で、ネルのカバー、一枚目のクロス、二枚目のクロスの三枚重ねが理想的です。これならグラスや食器をテーブルに静かに置くことができます。
欧米ではナプキンは本来、70〜75cm角の大きさのものが正式ですが、日本では50cm角の大きさが一般的ですので、厚手で上質の生地であれば50cm角で問題ないでしょう。

●カトラリー
せっかく高いお金を払って来ているのですから、自宅ではほとんど使わない銀製品を使ってもらいたいものです。フランスの『クリストフル』、『ピュイフォルカ』、英国の『マッピン&ウェップ』、『ガラード』なら申し分ありません。高級レストランで一番使われる『クリストフル』の場合、ホテルライン(刃の部分にHOTELの表示があります。)と呼ばれる業務用の安価なシリーズで充分でしょう。
当然料理に合わせたカトラリーが用意されるべきで、料理によってはソースも楽しめるように、ソース・スプーンも用意して欲しいと思います。パンでソースをぬぐうのは、高級レストランではやりたくありませんので。

●プレゼンテーションプレート(サービスプレート、位置皿)/食器
プレゼンテーションプレート・食器は国産の大手メーカーのものでも品質は高いので、これで充分です。ただ盛付けの美しさを重視するならば、食器の中央に柄がなく、周囲のみ柄が入っている食器を選んで欲しいと思います。またその料理をより引き立てる食器を選んでいるか注目しましょう。勿論、一部でも破損している食器を使うレストランは問題です。高級レストランならば、前菜、メイン料理、デセールには、ディナープレート(27cm前後の径のお皿)を使ってもらいたいものです。
また料理によって、お皿の温度が適当かは重要なポイントです。なお手を使って食べなければならない料理の場合、フィンガー・ボールが当然用意されるべきですが、アミューズ・グールではサービスされないことがありますので、この点も注目しましょう。

●グラス
水を飲む場合は、普通のクリスタル・ガラスのゴブレットのグラスで充分ですが、ワインを飲む場合、理想的なのは、やはりオーストリアの『リーデル』のグラス(脚のところにマークがあります。)が最高と考えます。ソムリエ・シリーズまでは勿論望みませんが、ヴィノム・シリーズを用意してくれれば、ワインの楽しみはぐっと広がります。デリケートなワイングラスなので、業務用として使用するのは大変ですが、それ故このグラスを採用しているレストランは価値がありますし、そのレストランのシェフ、ソムリエのワインに対するこだわりを感じます。最近はバカラ・HOYAなどでも同種のグラスを出すようになりましたし、ロブマイヤー、スピゲラウも同じようなグラスがありますので、このようなグラスでも勿論良いと思います。

●その他 テーブルに置かれるもの
生花を飾る場合、匂いの強い花は、食事の妨げになりますので避けるべきです。もっと陶花(英国『ロイヤル・ドルトン』のものが有名です。)を積極的に利用すれば良いのですが、利用しているレストランはほとんどありません。
Welcomeカードが置いてあると、とても気分の良いものです。なかなかここまで気遣いをするレストランは少ないでしょう。
ろうそくやランプは先ほども書きましたが、その光源が目障りだとうっとうしいものです。

●メニュー
メニューを豪華な皮張りにしていることがありますが、あまり装丁を豪華にする必要はないと考えます。ビストロにありがちな、薄い紙にわかりにくい手書きで書かれては困りますが。それよりも、料理の内容(素材、ソース、調理法、付け合わせ)が明確に記載され、価格がわかりやすいことの方が重要です。レストランによっては、女性には価格表示のないメニューを渡すことがありますが、その必要はないと思います。日本の場合は価格表示がないとかえって招待された側が遠慮してしまうと思います。

●ワインリスト
これも装丁の豪華さよりも、ワインの産地(単にボルドーの赤、ブルゴーニュの白では情報不足です。)、造り手、ビンテージ、価格ががわかりやすく、明確に記載してくれればワイン選択は楽です。また品切れのワインを平気で載せているリストでは困ります。日本語も併記してくれれば親切です。

◆サービス
レストランで最も重視すべきサービスは、親切、愛想、笑顔ではなく、タイミングだと考えます。お客様が何を望んでいるのか、それをすぐに察知し対応することが、プロのサービスだと考えます。親切、愛想、笑顔も大切ですが、二番目のものと考えます。
とても親切で愛想良く応対してくれても、なかなかメニューを持ってこなかったり、空のワイングラスに気がつかないようでは、プロのサービスとは言えないと思います。

●予約時
電話で予約した時に、席の位置の希望を伝えたり、当日の料理の内容を質問した時に、的確かつ親切に対応して欲しいと思います。

●入店から席まで
予約リストのチェック、コートや手荷物の預かり、席に案内するためのメートル・ド・テルへの取り次ぎなど、レセプション(フロント)の仕事はいろいろあります。レストランの第一印象を決めるわけですから、親切かつ、きびきびと対応して欲しいものです。
席に案内する時、例えば床に段差などがある場合に、お客様に注意を促してくれれば助かります。席につく時に、テーブル、椅子をどのようにサポートしてくれるかにも関心を払いましょう。
高級レストランならナプキンを膝にかけるくらいのサービスもしてもらいたいものです。

●料理等の注文時
最初に席について注目したいのは、席数に対してサービススタッフの人数が充分かということです。そのレストランの経営姿勢にもかかわります。(あくまでグランメゾンの場合です。)

・食前酒を注文・サービスする時
食前酒が必要かどうか質問しないで、いきなり料理のメニューを持ってくるレストランはないと思いますが、食前酒のメニューは通常ないので、何を注文したらよいか迷っているお客様に親切にアドバイスして欲しいと思います。
また食前酒を飲み終わっても、なかなかグラスを片づけない事もあります。

・料理を注文する時
料理の内容を詳しく説明したか、料理を迷っているお客様に親切にアドバイスしたかなど、この時のサービススタッフの応対で、レストランのサービスの印象が決まるといっても良いでしょう。コース料理に苦手な料理があった場合、交換できるか積極的に相談してみましょう。その時の対応でお客様の立場に立ってサービスしているかよくわかります。
またメニューには『本日の魚料理』と書いておきながら、お客様の方から質問しないと、その内容を答えないようなレストランでは困ります。

・ワインを注文する時
こちらから申し出ないとワインリストを持ってこないレストランは論外ですが、普通の高級レストランなら、料理の注文をした後に、ソムリエがワインリストを持ってきます。特にソムリエに相談しないで、自分で銘柄を指定して注文する人は問題ありませんが、好みのワインの傾向、価格の希望を伝えて、ワインを選んでもらう場合、どのようなワインを推奨するかで、ソムリエの力量がわかります。自分の好みを押し付けるようなソムリエでは困ります。
またシャンパーニュや白ワインを注文した場合は、すぐにバスケットで冷やさないと適温にならないことが多いので、迅速にその準備をして欲しいですし、赤ワインも飲み頃より早く栓を開ける場合、早くデキャンタージュしてくれると助かります。

●配膳時

・ワインのサービス
テイスティングしてOKを伝えた後に、勝手にソムリエの判断でデキャンタージュしては困ります。お客様に質問して、承諾を得てから行う必要があります。
ワインは食事に合わせて注がれる事になりますが、料理の進行にある程度配慮して、注いでもらいたいものです。どんどん注ぐソムリエも困りますが、いつまでたっても空のグラスに気が付かない場合もあります。
食後のサービスの事になりますが、残ったワインは持ち帰れるはずなので、積極的に申し出ましょう。またエチケット(ワインのラベル)も思い出に、専用シートにファイルしてくれるように申し出ましょう。その時どちらもソムリエの方から言ってくれるとうれしいものです。残ったワインの方はちゃんとパッケージングしてもらいたいものです。

・水/ミネラルウォターのサービス
ワインを注文すると、水用のグラスがあっても、注文しないと水を注いでくれないことが多々あります。また注文時に何も希望を聞かないで、水道の水ではなく有料のミネラルウォターを注ぐのも問題です。

・パン/バターのサービス
パンはアミューズ・グールが出されてからサービスされますが、あまり早く出され、なかなか前菜が運ばれなくて、手持ちぶさたでパンを2個も食べてしまったなんてことがあっては困ります。またパンのお代わりを注文しなくても、タイミング良く温かいパンが『パンをいかがですか?』と勧められるようして欲しいものです。この時温めたパンをナプキンに包んで、保温して持ってくる配慮があれば丁寧なレストランです。さらにパンをバスケットから手で取らせる場合がありますが、個人的にはフランスの流儀に関わらず、日本のグランメゾンならパン皿に置いてもらいたいものです。またバターをパンの後に持ってくるのは順序が逆です。

・料理のサービス/ゲリドン・サービス
シェフが完全に調理した料理を、お客様にタイミング良くサービスするのが、サービススタッフの最も大切な仕事です。まだ前の料理を食べているのに、次の料理が出来上がってしまったり、いつまで待っても次の料理が出て来ないようでは、プロのサービスとは言えません。いくら他が親切なサービスであっても、基本的なオペレーションが出来ていないレストランだと私達は考えます。
なお料理の説明は、適度な長さで、しかもお客様の質問に的確に答えられるようにして欲しいものです。いちいち厨房に聞きに行くようでは困ります。

ダイニングルームで仕上げの調理をするのを、ゲリドン・サービスと言い、メートル・ド・テルの仕事になります。個人的には、調理場で完全に調理してから持ってきて欲しいのですが、ローストなどの料理をさばく(デクパージュ)時やクレープ・シュゼットのように炎の演出をするデセールには必要になります。この時の仕事を的確に行うかにも注目しましょう。

・フロマージュ(チーズ)のサービス
フロマージュは、通常コースに含まれないことが多いですが、注文した場合、希望したものを選んでお皿に盛り付けてくれることなります。各フロマージュの説明が丁寧か、お客様の好みを察知してどのようなフロマージュを勧めるか、また質問の受け答えが適切か、盛付けも丁寧か注目しましょう。

・デセールのサービス
デセールの前に、テーブルのパン屑を掃除しない高級レストランはないと思いますが、一応確認しましょう。
デセールは厨房で完璧に仕上げてから運ばれる皿盛りのデセールの場合とワゴンからお好みのデセールを盛り付けてサービスする場合があります。厨房で仕上げてある場合、タイミング良くサービスされないと困ります。アイスクリーム、シャーベットがちょうど良い状態かどうかで、ある程度チェックできます。ワゴンからサービスされる場合は、各デセールの説明に過不足がないか、お客様の望み通りの量で、きれいに盛り付けられているかチェックしましょう。

・食後の飲み物・プティフールのサービス
食後に、コーヒーなどの飲物とプティフールが出されますが、これもデセールの後にタイミング良く、丁寧にサービスされるかチェックしましょう。また飲物は、なくなるとお代わりを勧めてくれると、うれしいものです。コーヒーをサービスし終えると、もうこのテーブルはおしまいという感じで、後は会計で呼ばれるまで知らん顔では困ります。お客様が何を望んでいるかを、常にアンテナを張り巡らしているか、このあたりでもわかります。

・食後酒・シガーのサービス
食後酒、シガーは希望した場合に、サービスとなります。食後酒に関しては、サービススタッフの方から希望を聞かないことがあるので注意しましょう。シガーに関して、私達はたしなみませんが、できれば匂いが強いので、シガールームなどダイニングルームとは別の場所でサービスしてもらいたいものです。

●会計時
会計はきちんと明細を示しているか、またわからない箇所を質問して的確に答えてくれないと気分が悪いものです。読みにくい手書きで、フランス語で書いてあったら困ります。また会計に時間がかかると、帰る気になっているので、ここでかなり待たされると、いらいらさせられます。

●出店時
出口まで、テーブルの係りの人が案内してくれる、コート等を受け渡し、コートを着る手伝いをしてくれる、エレベーターを呼んでくれる、見送りの言葉をかけてくれるなどの一連のサービスができていることが基本と考えます。この最後のサービスがとても心地良いかで、レストランの印象がかなり変わる大事なポイントです。

◆料理
料理はレストランの主役ですから、コースの場合、味の組み立ては勿論、料理の量もチェックしましょう。アラカルトの場合、通常日本では、前菜一品、メイン料理一品、フロマージュ、デセールで物足りなければ困ります。

●アミューズ・グール
小品とはいえ、そのレストランで最初に食べる一品です。その後の前菜への期待を高めるようなものであって欲しいと思います。

●パン
自家製の高品質のパンを3種類以上用意してもらいたいものです。サービスされる時は、常に適当な温度であって欲しいと思います。 。

●バター
サービスされる時に適度な硬さであることが必要です。固すぎてバターナイフで取れないようでは困ります。また冷蔵庫に保存されますので、他の食品の匂いが移っていても困ります。フランスのエシレ、日本のカルピスバタークラスは使ってもらいたいものです。

●冷前菜/温前菜
盛付けは美しいか?、良い素材を使っているか?、素材の旨味を充分引き出しているか?、ソースが素材をより引き立てているか?、付け合わせとメインの素材との相性は良いか?、料理全体の味のバランスは良いか?、火の通り具合は妥当か?などが主なチェック・ポイントと考えます。さらに私達の場合、味に新鮮な驚きがあるか?も重視したいと思います。

●スープ
スープを用意しているレストランが少なくなりました。下ごしらえに手間がかかるわりに、一品としてのボリューム感がなく、前菜に比べてあまり高い価格をつけられないためでしょうか?スープの出来の良いレストランはソースにも力を入れているはずです。素材の旨味を充分引き出しているか、またスープの温度は妥当かもチェックしましょう。

●魚料理
前菜のチェック・ポイントに加えて、コースの場合、次に続く肉料理との味の組み合わせに不都合がないかチェックしましょう。

●グラニテ
お口直しにぜひコースに加えて欲しい一品です。当然用途が異なりますのでデセールのシャーベットとは異なっていなければなりません。

●肉料理
前菜のチェック・ポイントに加えて、肉を切って盛り付けてある場合、切り方が妥当か考える必要があります。また焼き方を指定した料理の場合、当然そのチェックが必要です。

●フロマージュ(チーズ)の品揃え・状態・価格
白かび、青かび、ウォッシュタイプの3タイプは必ず用意していると思いますが、全部で10種類以上の品揃えは欲しいところです。コースに含まれていない場合が多いためか、あまりフロマージュの注文がなさそうなレストランは保存・熟成状態に注意が必要です。何種類注文しても同じ価格の場合が多いですが、¥2,000を越えると高いように思います。またフロマージュと相性の良いクルミや干しブドウなどの入ったパンも用意してもらいたいものです。

●デセール
デセールは食事のフィナーレを飾るものです。この出来いかんで、他の料理の印象も変わってしまう可能性があります。厨房でパティシエが完全に調理して盛り付けたデセールの場合、盛付けの美しさと独創性、素材の質、素材の組み合わせ方と完成度をチェックしましょう。料理と同様に、味に新鮮な驚きもあることが必要です。
ワゴンからサービスされる場合、5種類以上のケーキ、フルーツのコンポート、フルーツ、シャーベット、アスクリーム、フルーツソースを用意してもらいたいものです。素材の質、味にバラエティがあるかチェックしましょう。サービススタッフの盛付けの美しさにも注目してください。スペアミント、ペパーミントなどのハーブを付け合わせてある場合、その品質のチェックも忘れないように。

●プティフール
トリュフ、タルトなど3種類以上のお菓子が欲しいところです。作り置きしている場合が多いので、味、品質をチェックしましょう。

◆飲物

●食前酒
最近、食前酒はシャンパーニュやシャンパーニュを使ったカクテル(キール・ロワイヤル、ミモザなど)が主流になっています。グラスでシャンパーニュを出しますので、その品質に注意が必要です。またオーソドックスな食前酒のシェリー酒(ティオ・ペペが有名です。)の場合、酒精強化ワインで、ワインと同じように酸化しやすいので、その点に特に注意しましょう。

●ワイン/シャンパーニュ(スパークリング・ワイン)の品揃え・状態/温度・価格・開栓料
グランメゾンなら80種類以上の品揃えが欲しいところです。ボルドー、ブルゴーニュの有名銘柄を中心として、フランスの他の地方(コト・デュ・ローヌ、アルザス、ロワール、ラングドックなど)、イタリア、スペイン、ドイツ、カルフォルニアなどの優良銘柄をいくつか加えてもらいたいと思います。シャンパーニュの品揃えに関しては貧弱なレストランが多いので、注意が必要です。ハーフボトルも赤、白を楽しみたい時には便利ですので、もっと仕入れてくれれば良いと思いますが、なかなかそこまで配慮しているレストラン少ないようです。状態/温度に関してはテイスティングで充分チェックしましょう。
価格的には、自腹で払う人間には、¥8,000〜¥15,000の品揃えを多くしてもらいたいと思います。料理の価格とワインの価格があまりにもバランスが悪い品揃えのレストランは問題です。なお開栓料でワインの持ち込みできるレストランがありますが(グランメゾンでは、少ないですが)、できれば¥2,000〜¥3,000に抑えてもらえれば、家のセラーのワインを持ち込みやすくなります。

●水/ミネラルウォター
水道水でも充分な品質、温度であることに注意しましょう。氷を使用している場合、冷蔵庫の匂いが移っていないかチェックが必要です。ミネラルウォーターの場合、ガス入り、ガスなし両方の品揃えがないと困ります。

●食後の飲み物
最近はコーヒー、エスプレッソ、紅茶のほかにフレッシュ・ハーブティーも選べることが多くなりました。
コーヒー、エスプレッソがひどい出来のレストランは少なくなりましたが、紅茶に関しては、お粗末なレストランが多いように思います。品種もダージリンだけで選べない場合が多いし、入れ方も基本ができていないレストランが多く、コーヒーと紅茶のミルクを同じ物ですますようなレストランでは困ります。当然ミルクの温度にも注意してください。

●食後酒
ブランデーではなくカクテルを注文した場合、特にベルモットを使ったカクテル(マティーニなど)の味に注意してください。ベルモットはスピリッツも配合されていますが、基本的には香草・薬草を配合したアロマタイズド・ワインのため酸化が避けられず、カクテルで使われるリキュール、スピリッツと同じようには扱えません。保存に関して、ワインと同様な注意が必要です。ベルモットほどではないですが、ポルト酒、マディラ酒もシェリー酒と同様に酒精強化ワインですので、同じことが言えます。


仏蘭西料理屋通信簿用紙の使い方

冒頭にも述べましたように、この用紙は他のフレンチレストランガイド(お店の広告のためのガイドや、他人が採点・ランキングをしているガイド)などをあてにしないで、ご自分で最高級フレンチレストランを評価してみたいと考えている方のために用意しています。フレンチレストランの評価が容易にできるように、上記に述べてきたようなチェック項目を一覧表にしています。

なお、それぞれの項目をどう重み付けして評価するかはご自由にどうぞ。人によって雰囲気サービス価格のどれを重要視するかで違ってくると思います。そのため簡単に評価したい時は評価欄に○をつける方法で、細かく評価したい時には、採点したりコメントも記入できるようにしました。なおこの用紙は私達の評価項目、評価基準で作成していますので、自分にとって必要のない評価項目はどんどん削除・改変してお使いください。

ご自分にとっての理想のフレンチレストランを見つけるために、この用紙が少しでも役に立てば幸いです。
仏蘭西料理屋通信簿用紙 (pdfファイル)

・この用紙は自由に印刷・コピーしてご利用くださって結構ですが、個人的な範囲での利用をお願いいたします。
・この用紙は家に帰ってから、ご自分で利用したレストランの記録を残しておくためのものです。



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