フレンチレストランの飲物について

ここではワインを中心にフレンチレストランで注文する飲物についての基礎知識をまとめています。



食前酒について

食前酒は特に注文する必要はないですが、ウェイティングルームなどで食前酒を楽しみたい場合や、メニューをじっくり見て料理を決めたい場合は注文しましょう。食欲を増進させるためのものなので、アルコール度数の強いものではなく、すっきりとした味わいのお酒が適しています。
注文する場合、スパークリングワイン、シェリー酒、カクテルが代表的な食前酒です。高級フレンチレストランでは、スパークリングワインは通常シャンパーニュ地方のシャンパーニュ(日本ではシャンパンとも呼ばれていますが、ここではシャンパーニュの名前を使います。)を使用します。
食前酒として日本人なら(ドイツ人、ベルギー人も?)、ビールを注文したいと思う人も多いでしょう。ビールを頼んでも勿論構わないのですが、フランス料理が好きな人から、フランス料理を食べたことがない無知な人だと冷たい視線を浴びることを覚悟してください。日本のビールの場合、フランス料理に合うお酒とは思えませんし、レストランによってはビールを置いていない場合もあります。
フレンチレストランでよく注文される食前酒は以下の通りです。

シャンパーニュ(シャンパン)
グラスで注文しますが、通常はそのレストランで標準としているメーカーの極辛口(仏 Brut)のものを使います。フランスの高級レストランでは、ボトルを持ってきて、『この銘柄で良いか?』確認を求めることがあります。(シャンパーニュについては後に出てくる説明も参照してください。)

シェリー酒
昔は主流であったシェリー酒(酒精強化ワインと呼ばれ、ブランデーなどのアルコール度数の高い蒸留酒を加えて熟成させたワインです。)ですが、現在は注文する人は少なくなっているようです。シェリー酒にもいろいろ種類がありますが、食前酒としてはドライシェリーをグラスで注文します。メーカーとしては、スペインのティオ・ペペが有名です。

カクテル
カクテルに関しては星の数ほどの種類がありますが、シャンパーニュ、白ワインをベースにした軽いカクテルを注文する人が多いようです。

 シャンパーニュをベースとしたもの
   キール・ロワイヤル
クレーム・ド・カシスにシャンパーニュを加えて軽くステアしたカクテルです。シャンパーニュを白ワインに代えたものがキール(こちらが元祖)になります。
   ミモザ
オレンジジュースにシャンパーニュを加えて軽くステアしたカクテルで、とても軽やかな味わいは女性向きです。ミモザは花の名前で、春にオレンジ色の花を咲かせます。
   ベリーニ
ピーチネクターにグレナデン・シロップとシャンパーニュ(本来はイタリアのスパークリングワイン スプマンテ)を加えて軽くステアして作ります。ヴェネツィアの有名な『ハリーズバー』で考案されたカクテルで、ルネッサンス期に活躍したベネツィアの画家、ベリーニから名づけられています。ちなみに同じ『ハリーズバー』で考案された料理、カルパッチョも、ルネッサンス期に活躍したベネツィアの画家、カルパッチョから名づけられています。

 白ワインをベースとしたもの
   キール
キール・ロワイヤルの項で書いたように、クレーム・ド・カシスに白ワインを加えて軽くステアしたカクテルで、ブルゴーニュ地方、ディジョン市長キール氏が考案したカクテルです。
   スプリッツァー
氷を入れたグラスに白ワインを注ぎ、ソーダを加えて軽くステアして作ります。レシピから想像できるように、アルコール分が少なくすっきりした爽やかなカクテルです。

 リキュールをベースとしたもの
リキュールをベースとしたものは、ソーダで単に割ってレモン汁を注ぐカクテルが食前酒に向いています。カンパリ(薬草系)をベースに使ったカンパリ・ソーダが代表的なものですが、オレンジ・キュラソー(果実系)やアマレット(種子系)などを使っても食前酒に向いています。


アルコールに弱いか、受け付けない場合

アルコールが弱い人はグラスワインを注文するか、ハーフボトルを注文しましょう。グラスワインは白、赤用意してありますので、前菜、魚料理用に白、肉料理に赤のグラスワインを注文すれば十分です。ワインに力を入れているレストランでは、グラスワインでも銘柄を選択できるように配慮していることがありますので、アルコールに弱い人でなくても、いろいろなワインを試飲(デギュスタシオン)する楽しみが生まれます。
ハーフボトルは種類が限られてきますが、4杯弱の分量なので、レストランにカップルで行った場合、銘柄によってはグラスワインを注文するより割安になります。食前酒+ハーフボトルの組み合わせで、食事を通しても良いでしょう。

アルコールを受け付けない人は、食前酒にノンアルコールカクテルでも飲むか、食事中は水を飲むしかありません(ジュース、コーラなどのソフトドリンクは、たとえレストランに用意してあっても、食事中は飲むのを控えましょう。料理の味がわからなくなりますので。)が、フレンチレストランの場合、ガス入り(フランスのペリエ、イタリアのサンペレグリノが有名です。)、ガス抜き両方のミネラルウォーターを通常用意してありますので、水道水で満足できない人は、好みのミネラルウォーターを注文しましょう。レストランによっては水道水を用意していなくて、水を注文すると、ミネラルウォーターになる場合があります。ガス入りのミネラルウォーターは苦手な人が多いですが、慣れてくると飲み心地がすっきりしていて、フランス料理のようにバター、クリームを使う食事に合わせるには、ガスなしよりも向いています。



ワインとシャンパーニュ(シャンパン)の基礎知識

ワイン、シャンパーニュについて書くと本一冊分は必要なので、ここではフレンチレストランでワインやシャンパーニュを注文する場合、最低限必要となる知識を書きます。高級フレンチレストランでは一般的にワインはボルドー、ブルゴーニュ、スパークリングワインはシャンパーニュを中心に品揃えしているので、他の地方のワイン等については割愛させていただきます。さらに知識を深めたい方は、ワインに関するWebサイトを参照するか、ワインに関する本を読んでください。

bottle





ボトルの形
左の写真は右がボルドー地方のワイン(銘柄はシャトー・ラトュ−ル)の瓶、真ん中がブルゴーニュ地方のワイン(銘柄はクロ・ド・ブージョ)の瓶、左がシャンパーニュ(銘柄はドン・ペリニヨン)の瓶になります。
ボルドーは瓶の肩が張った形で、赤ワインが暗緑色、白ワインは薄緑色か透明、ブルゴーニュは撫で肩で、ボルドーより若干太目の瓶で赤ワイン、白ワインとも薄緑色です。シャンパーニュは、ブランドにより多少色、形が異なりますが、撫で肩で、発泡性のため瓶内の気圧が高いのでガラスが厚く、暗緑色になっています。コルクの形もワインと異なります。


ラベルの見方
レストランでワインを注文する時にラベルを見て行うわけではありませんが、ソムリエがセラーからワインを持ってきて、ラベル(仏語でエチケット Etiquetteといいます。)を見せて、注文したワインかどうか確認を求めます。銘柄を間違えて持ってくることはありませんが、ある程度の知識は覚えておいた方が、ご自分でワインを購入する時も便利です。

フレンチレストランでは一般的に高級なAOCワイン(原産地統制名称法に基づくワインでブドウ品種、生産区域、醸造方法などを法律により規制されています。イタリアでもDOCと呼ばれる同様な法律があります。)を出しますので、これを例にラベルの見方を説明します。
AOCワインより低価格のAO VDQS(非常に生産量が少ないのでレストランのリストにはないと思います。)、Vin de Pays(ヴァン・ド・ペイといい地酒に相当するワインで、ビストロのハウスワインなどに使われることがあります。)、Vin de Table(ヴァン・ド・ターブルといい、いわゆるテーブル・ワインと呼ばれる日常用のワインです。カフェなどで単にグラスワインを頼むと出る場合があります。)については、ご自分でワインを購入する時以外はほとんど必要ないので省略いたします。

下のラベルはボルドー地方のAOCワイン、シャトー・デュクリュ・ボカイユのものです。
銘柄により、各項目の配置は異なりますし、収穫年を別の小さなラベルにして上の方に貼ってある場合もありますが、書いてある内容は基本的に同じです。
winelabel
ラベルに書いてある各項目の意味は、次の通りです。

  1992
一番上に書いてある1992の数字が、このワインに使われたブドウの収穫年(ヴィンテージ)を示しています。

  CHATEAU DUCRU BEAUCAILLOU
これがこのワインの銘柄になります。

  GRAND CRU CLASSE DE MEDOC EN 1855
このワインの格付けを示しています。上の直接の意味は『1855年にメドック地区(ボルドーの中の地区名です。)の偉大なブドウ畑の等級に格付けされている。』ということです。簡単に言うと優良銘柄に格付けされているワインであることを示しています。ブルゴーニュでは『GRAND CRU(特級)』、『PREMIER CRU または 1er CRU(一級)』もあります。

  MIS EN BOUTEILLE AU CHATEAU(斜めに書いてある少し読みにくい文字です。)
CHATEAU(シャトーと言ってもお城のことではありません。醸造所のことです。)でブドウ栽培、醸造、瓶詰めまでを一貫して行ったことを示しています。ボルドーの場合は瓶詰めまで一貫してシャトーが行うことが多いですが、ブルゴーニュの場合、MIS EN BOUTEILLE AU DOMAINEと書いてあることがあり、その場合にはブドウ畑の所有者(造り手)が瓶詰めまで行います。またNEGOCIANT(ネゴシアン 適当な日本語がないので、ここではワイン商としておきますが、単にワインを販売するだけでなく、いろいろな畑からブドウを買い付けて、瓶詰めまで行う業者もいます。)と書いてある場合や、会社名を記述する場合もあります。

  SAINT−JULIEN
ボルドー地方、メドック地区の村名、サン・ジュリアンを示しています。

  APPELLATION SAINT−JULIEN CONTROLEE
この表示がAOCワインであることを示しています。”O”は”Origine(原産地)”の頭文字で、この”O”に相当する部分が、地域名(ボルドー)→地区名(メドック)→村名(サン・ジュリアン)と狭くなるほど、ブドウの品質が限定されて高級ワインになります。

  12.5%Vol.
アルコール度数の表示です。

  750ml
内容量の表示で、ハーフボトルの場合、375mlの表示になります。

  PRODUCE OF FRANCE
フランス産であることを示しています。輸出するワインには必ず表記されます。

ワインリストの見方
下記に簡単なワインリストの例を示して、リストの見方を説明します。レストランによりワインリストの構成は異なりますが、ボルドー、ブルゴーニューの赤・白ワインを中心にして、シャンパーニュ等を入れた、最も一般的な仏語のワインリストの例(日本語を併記してあったり、ビストロなどでは日本語で書いてある場合もあります。)を示します。
なおこの例の場合、シャンパーニュは併記、ハーフボトル(Demi−Bouteille)は併記していませんが、どちらも別リストになっている場合があります。
それぞれの銘柄の価格に関しては、ある程度の目安で適当に書いていますので参考にしないでください。レストランの価格はもっと高い場合が多く、特にボルドーは年々高騰していますので、レストランにより価格差が大きくなっています。
winelist

上に示したワインリストのように、赤ワイン(Vin rouge ワインリストではROUGES)、白ワイン(Vin blanc ワインリストではBLANCS)、シャンパーニュ(CHAMPAGNE)の項目に大きく分かれます。赤ワイン、白ワインとも、ボルドー、ブルゴーニュ、その他の地方に通常分類されますが、シャンパーニュに関してはシャンパーニュ地方しかありませんので、通常は各メーカーの商品名が並びます。シャンパーニュに力を入れているレストランでは、メーカーごとに分類して、それぞれのメーカーの商品名をいくつか書いている場合もあります。

ボルドーの赤ワインは通常、地区名(メドック地区、グラーヴ地区、サン・テミリオン地区、ポムロール地区、ソーテルヌ地区など)や村名(有名なメドック地区はサン・テステフ、 ポイヤック、 サン・ジュリアン、マルゴーなど)でさらに細分化されて書かれていますが、ブルゴーニュに関しては地区名(シャブリ地区、コート・ド・ニュイ地区、コート・ド・ボーヌ地区、コート・シャロネーズ地区、マコネー地区、コトー・ド・リヨネ地区、ボジョレー地区など)で細かく分類しない場合が多いようです。その代わり一般的に造り手やネゴシアンが表示されます。これは同じ銘柄名であっても造り手やネゴシアンが異なると微妙に味が異なるためです。

ただソムリエはそのレストランの料理の傾向に合わせてワインを品揃えしているはずですから、初心者はあまり造り手等にこだわらないで、赤か白か、好みの味(フルボディかミディアムボディか、渋味がおだやか、フルーティなど)や、『今日はボルドーのワインを飲んでみたいのだけれど、この料理に合わせやすいワインはないですか?』などの、ある程度の希望を言って、料理に合うワインをセレクトしてもらった方が良いと思います。余裕があれば、エチケットを専用のシートに貼ってもらい、食後にその時飲んだワインの味・香り・色を、シートの裏にメモしておきましょう。次にレストランに行った時に、ワインの選択がしやすくなります。


champagne シャンパーニュ(シャンパン)について
シャンパーニュはパリの北東、ランス市を中心とするシャンパーニュ地方で作られるスパークリングワインのことで、法律により使えるブドウの品種、製法(瓶内二次発酵など)が決められています。シャンパーニュ地方以外のスパークリングワインはシャンパーニュを名乗ることはできなくて、総称してスパークリングワインの仏語、ヴァン・ムスー(Vin mousseux)と呼ばれます。
シャンパーニュで有名なメーカーとしてモエ・エ・シャンドン(Moet et Chandon)、ポメリー(Pomery)、ヴーヴ・クリコ(Veuve Clicquot)、テタンジェ(Taittinger)、G.H.マム(G.H.Mumm)、ローラン・ペリエ(Laurent−Perrier)、ランソン(Lanson)、クリュッグ(Krug←高級シャンパーニュ)などが挙げられます。

シャンパーニュに使用するブドウは黒ブドウ、白ブドウを混合して作られ、大半が白のシャンパーニュですが、ロゼ(Rose)と呼ばれる薄いピンク色のシャンパーニュもあります。但し通常のシャンパーニュより高価で、赤と白の中間の性質と考えるのではなく、白のシャンパーニュに、少し赤の味わい、渋味が加わったと考えた方が良いと思います。また白ブドウのシャルドネ種だけで作られたブラン・ド・ブランと呼ばれるシャンパーニュもあります。
シャンパーニュはいくつかの収穫年のブドウをブレンドして作られるため、通常はヴィンテージの表示がありませんが、ヴィンテージ・シャンパーニュと呼ばれる高級品は良い収穫年のブドウのみで作られ、ラベルに収穫年(ヴィンテージ)が記されます。
シャンパーニュの辛口、甘口の区別はラベルにBrut(極辛口)、Extra−Sec(辛口)、Sec(中辛口)、Demi−Sec(甘口)と書いてあるので判別できますが、どんな料理にも合わせる場合、Brutを選択した方が合性が良いでしょう。

単に食前酒としてシャンパーニュを楽しむだけでなく、食前酒から魚料理までをシャンパーニュで通し、肉料理からフロマージュまでを赤ワインで通すのもおしゃれと思います。また各人の酒量に応じてハーフボトルも組み合わせれば、いろいろな味わいを楽しむことができます。



食後酒について

食後酒は食前酒と同様に特に注文する必要はありませんが、別室に移ってシガーと一緒に楽しんだり、食後の余韻を楽しみたい時には注文しましょう。食後酒は胃に刺激を与えて消化を促すためのものなので、アルコール度数の強いお酒が適しています。

最も一般的な食後酒はブランデーで、フランスではシャンパーニュと同様に法律で製法等が決められているものに、コニャックとアルマニャックがあります。コニャックの方が一般的に高価ですが、品質的にはアルマニャックもひけを取りませんので、あまりコニャックのナポレオンやXOにこだわる必要はないと思います。
また蒸留酒としては、リンゴから作られたカルヴァドス、ブドウの絞り残しを再発酵して蒸留したマール(イタリアではグラッパと呼ばれます。)もあります。

デセール(デザート)の余韻を楽しみたい人は、ポルトガル産のポートワイン(シェリー酒と同じ酒精強化ワインで、ヴィンテージ物は高価ですが、とても美味です。)、果実系のリキュールなど甘口のお酒が適しています。マディラ酒(これも酒精強化ワインで、肉料理のソースにもよく使われます。)を選んでも良いでしょう。
果実系のリキュールとしては、グランマルニエ(オレンジリキュール)、コアントロー(ホワイトキュラソー)、フランボワーズなどがあります。また果実系ではなく種子系ですが、最近人気があるリキュールに、あんずの核を原料としたアマレットがあります。
またカクテルがお好きな方は、ドライマティーニ、ウオッカマティーニ、ギムレット、マンハッタンなどのカクテルも食後酒に向いています。

これらのお酒はどれもアルコール度数が強いので、くれぐれも食事中のワインやシャンパーニュで酔ってしまった人は、食後酒まで注文するのは控えましょう。酒場や居酒屋ではないのですから、フレンチレストランで泥酔状態ほどみっともないことはありません。


ワインを注文してフランス料理を楽しむと、料理が一層おいしく感じられます。
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